会長ご挨拶
横浜歯科漢方研究会 会長:渡辺 秀司
現在、歯学部の中で、東洋医学や漢方講座を置いている大学は少なく、取り入れているとしても、少数の学校であり、せいぜい特別講義として行われているにすぎません。臨床においても、口腔外科の領域で、投薬が行われているのが主体です。そのため、本来の漢方の臨床における方向性と異なり、科目臨床のかたより、東洋医学のモデル・コアカリキュラムへの組入れの無いことが、歯科における漢方の普及が遅れているのかもしれません。
医療の進歩とともに、歯科領域においても、全身的、精神的背景を持って診断し、診療することの必要性が必須になってきています。しかし、歯科領域においては、口腔外科や歯科麻酔科がもっとも漢方臨床に近くにあり、唯一漢方による診療を行っていると言っても過言ではありません。
日本の漢方は長い伝統があり、科学の進歩とともに医科系大学には、その研究・教育基盤が誕生しており、医学教育においては、平13年年度に医学教育モデル・コアカリキュラムの中に「和漢薬を概説できる」という項目が組み込まれました。現在では、全国80大学医学部・医科大学で、漢方講座、東洋医学教育がおこなわれています。薬学においては、すでに各大学において漢方の講座が置かれ、漢方生薬の学部までも設置されています。後数年後には、医師、薬剤師の国家試験には必ず、漢方の設問がでてくるでしょう。しかし、残念ながら、歯学教育のコアカリキュラムに東洋医学は含まれていません。
歯周病の治療法としての漢方の有用性はすでに示されており、微小循環器障害である歯周病、咬合からくる精神的、身体的ストレス、更年期や自律神経障害からの口腔乾燥症、舌痛症などの不定愁訴と関連が深い疾患には漢方抜きに治療できないところまできています。
歯肉の炎症は、微小循環器障害であり、血管の拡張、血液の粘性上昇により血行障害を生じますが、この症状は漢方の「証」としてみると「瘀血」として捉えることができます。そのため、歯周病は病原細菌による感染ですが、体質が「瘀血」であることが原因の大きなファクターであり、血流阻害により、自然免疫系の障害が生じることで易感染性体質(感染しやすい体質)となり、漢方ではこれを「瘀血証」といいます。
又、特異的刺激が大脳皮質に伝わると、視床下部からノルアドレナリンが放出され、交感神経が刺激されると、副腎髄質よりアドレナリンが分泌、生体の緊張、興奮におかれることがわかっています。
しかし、咬合異常や咬合破壊は身体ストレスが慢性化しストレス寛容が生じることで恒常維持機能が上手くいかず、交感神経優位となり緊張状態が続き、さらに副腎皮質よりストレスホルモンが増加、種々の精神的神経症状を生じさせ、軽い鬱状態となり、口腔乾燥症、舌痛症や口腔異常感症さらに不定愁訴や不安など更年期障害を持つ患者の症状をさらに悪化、増悪させます。また、ストレスホルモンの血中濃度の上昇維持は、免疫細胞の活性を強く阻害することもわかってきました。漢方を併用することは、このような症状を緩和し、治療効果を高めることができ、患者さんの信頼を得ることにつながります。
又、漢方治療は、西洋医学と併用することで、その効果を発揮することもできます。口腔外科だけでなく、歯周、保存、補綴、咬合、一般歯科領域においても他の専門領域で漢方を使用することで患者に恩恵を与えることができます。現在、一人の歯科医師が西洋薬と漢方薬の両方とも健康保険内で(限りはありますが)用いることが可能であり、これは日本独自の治療形態とも言えます。今回、2年ごとに改正される歯科の薬価基準の記載薬に漢方項目が入り、7処方が示されました。今後は薬価記載漢方の処方が増えていくものと思われます。
そこで、横浜歯科漢方研究会を発足し、広く漢方を学ぶ「場」を提供したいと思います。西洋医学と東洋医学を組み合わせて、新しい医学の道を探ること、歯科領域においても同じことです。この研究会から仲間が増え、広く我が国の歯科医療に普及することを願っています。
平成22年度は3月26日に第1回横浜歯科漢方研究会を神奈川歯科大付属横浜研修センターにて行い、約70名の参加があり、横浜薬科大学漢方薬学科の石毛 敦教授の基調講演、その他教育講演、4症例報告が行われ、次回に向けての手ごたえを感じました。
尚、この「横浜歯科漢方研究会」はNPO法人・日本 アジア口腔保健支援機構(内閣府主管)の組織の一部として活動しております。NPO法人の寄付行為については資料を添付しておきます。